以下は医療法人社団悠翔会理事長・診療部長の佐々木淳医師のブログ記事本当にPCR検査は必要か?の赤文字部分の引用に小林慶一郎氏の提案する3回のPCR検査を1セットとして感度を約97%に上げた場合の数値をカッコ内の(黒い太文字)で補ったものです。
PCR検査を無症状者や軽い風邪症状者などのスクリーニングと隔離のために積極的に使用する、検査の感度をあげて特異度(感染していない人を陰性と判定する確率)を少し犠牲にしても非常に多数の人を検査することを提言する方(小林慶一郎氏)とそれを否定する方(佐々木淳医師)の考え方の違い、分析の違いを浮き彫りにしたいと思います。
「2020年5月10日時点の日本の感染者は延べ15847人。ここから回復した8293人、死亡した633人を減ずれば、現段階で感染状態にあるのは6921人ということになります。
しかし、専門家の中にも、実際にはこの10倍から20倍の患者がいてもおかしくないという意見もあります。多めに見積もって、仮に20倍とすると、日本には138420人の感染状態の人がいるということになります。日本の人口は1.265億人ですから、913人に1人が感染状態にある可能性がある、ということになります。
ここでは計算しやすくするために1000人に1人が感染状態であると仮定します。
つまり、日本における新型コロナの「有病率」は0.1%ということになります。
病気の人を正しく病気であると診断できる確率を「感度」、病気でない人を正しく病気でないと診断できる確率を「特異度」といいます。
新型コロナのPCR検査の場合、感度は50~70%(ここでは70%で計算)、特異度は99%程度であると想定します。
では、神奈川県の伊勢原市で市民全員にPCR検査を実施すると仮定しましょう。
伊勢原市の人口は約10万人。有病率は0.1%ですから、10万人のうち100人が感染者で、残る9万9900人は感染していないということになります。
10万人の市民全員にPCR検査を実施しました。
PCR検査(を連続3回して一回でも陽性が出たら陽性とみなす場合)の感度は70%(約97%)ですから、100人の感染者のうち70人(97人)は陽性に出ます。一方、30人(3人)は陽性にはなりません。この人たちは感染しているのに検査結果は陰性なのです。(つまり3人が市中を動き回ることになる。)
しかし、9万9900人の感染していない人も全員が検査を受けています。PCR検査の特異度は99%(97%)ですから、このうち1%(つまり999人)(3%つまり2997人)は病気でないにも関わらず陽性と診断されてしまうということになります。
10万人の検査を実施して、結果が陽性になるのは、実際に感染している100人のうちの70人(97人)と、感染していない9万9900人のうちの999人(2997人)。合わせて1069人(3094人)です。しかし、この中で実際に感染していたのは70人(97人)だけですよね。検査結果が陽性になった人のうち、わずか6.5%(3.1%)しか本当の感染者がいない、ということになります。
伊勢原市では、70人の感染者に加えて、実際にはコロナに感染していない999人(2997人)も病院やホテルに2週間は隔離することになります。場合によってはアビガンなどの副作用の強い薬が投与されるかもしれません。そして、その家族も濃厚接触者とされ自己隔離、職場の人や友人たちも不安な思いをしなければならないかもしれません。さらに、自治体や国は、この999人(2997人)分の隔離にかかる費用を負担しなければなりません。
※もし、特異度を99.9%まで高めることができたとしても、非感染者のうち0.1%、99人は陽性と診断されます。実際に感染していて陽性になる人が70人。非感染者の陽性率のほうが高くなります。
※特に感染者の多い東京でも、有病率は多く見積もっても0.3%を超えることはないと考えられます。(2020年5月10日時点での東京の感染者数4,810。回復者数はデータがありませんが、日本のデータに合わせて約50%(約2400人)が回復していると仮定。死亡者数が155ですので、現時点での感染者は概ね2250人と想定されます。この20倍とすると4.5万人。人口が1400万なので0.03%。) この前提で計算した場合でも、検査結果が陽性に出た人の17.4%(約6人に1人)しか感染者がいない、ということになります。」
佐々木淳医師の分析は大変中立的で間違いないと思われます。現在の日本のように有病率が相当低い場合PCR検査を平均的な市民に実施しても偽陽性者の割合が多くなり隔離の負担が尋常でないものになることは間違いありません。例えば約20万人口の福井市で有病率0.1%約200人の陽性者を隔離するためにおよそ6千人の偽陽性者も2週間隔離するというのは無理かと思われます。そのためにホテルや体育館を使うと非常に経費も人員もかかり、その6千人の中に社会経済でキーとなる人材が多数おられた場合経済も教育も医療も支障をきたすでしょう。ただし、約97×2=約194人の陽性者を隔離し、市中で動き回る真陽性者を約6人にまで減らすことが出来ればその恩恵は計り知れないものがあります。
では、どうしたら経費や人員を減らし、隔離と経過観察者を減らすことが出来るでしょうか?新型コロナウイルス感染症の場合、疑わしきは全て(2週間)隔離する、ではなく疑わしきは再検査、再々検査する、で偽陽性者をスクリーンしてはずしていく方法、さらに疑わしきは医師の診断を受けるためにCT検査、診察、そして残った人のみ2週間の経過観察をするという方法で10分の1程度に隔離者の絞り込みが行えれば福井市でも600人の隔離は不可能ではないのではと思います。これまで医師の判断が条件でPCR検査をしていましたが、検査を先にしてさらに絞り込みの検査を複数回したあとに医師の診察、判断をするように順番を変えればいいわけです。
パンデミックの場合、ある条件で出来ないことでもあらゆる工夫をすることで出来るようになる場合があります。必要は発明の母といいます。有事の自覚があれば人はギアが変わるのです。必要なことはなんとしても実現しようとします。政府や各県、市町村の行政にその自覚ありやいなや?ここが重要です。(その2につづく)