上の写真は沖縄、座間味島の通称クジラ展望台と呼ばれる稲崎展望台からの眺望です。ベテランの探鯨員が潮吹きを目印に双眼鏡でクジラを発見しホエールウオッチング船に無線でその位置を伝えます。ほぼ百発百中の職人技だと言われています。
さて、PCR検査で無作為抽出の何万人もの人の中で新型コロナ感染者を見つけ出すことは無理だと言われてきました。これには検査の感度(誤差)の問題でやや専門的な理由がありました。私なりに説明してみたいと思います。クジラのように100%発見するのは無理だとしても高い確率で新型コロナ感染者を見つける方法はないのでしょうか?
新型コロナのPCR検査は絶対ではありません。誤差が大きく、十分なウイルス検体が採取できなければウイルスがあったとしても陰性になるということです。(ウイルスがなくても陽性になることもある。)これは検体採取の技術にもよる、あるいは上手く取れた場合と取れなかった場合など、同じ人でもバラツキもあるということです。採取者側の成功、失敗だけではなく採取される側が動かずに我慢してくれるか、くしゃみや咳をしてしまい激しく動いてしまうか、などにもよるでしょうか。検体採取の実際については無知な私ですので以上は推測です。同じPCR検査と言っても試薬やキットの品質や優劣もあるかも知れません。
ともかくPCR検査では30パーセント(以上)の偽陰性、1パーセントの偽陽性が出ると言われています。この点は政府からもテレビ等のメディアからもきちんとした説明が十分なされてこなかったように思います。私の間違った感覚では風邪症状でPCR検査をしてほしい人がやっと検査を受けられた。陰性だった。じゃあコロナじゃなかったんだ、と思いますよ、普通。それで安心される方が多かったと思います。実際は3割の偽陰性が出るとすればそれで家族や友達に感染させてしまう方もあったでしょう。クルーズ船の乗客1011人が最後に下船した時、PCR検査陰性の判定で公共交通機関に乗って帰宅した件で、厚生労働省は国立感染症研究所やWHOのガイドラインにそってOKを出したのだから問題ありません、という話でした。その時30パーセントの偽陰性があるけど大丈夫です、なんて言わなかったわけです。もちろん下船前2週間以上発症しなかったので陰性の確率が高く、さらにPCR検査陰性でダメ押し出来たという論理だったでしょう。その後偽陰性が出るからPCR検査は一定基準を満たさなければ受けさせてもらえないという説明がなされてきました。
では東京の約一千万の都民にPCR検査をした場合の偽陰性の数を考えてみます。これには実際の感染者数を想定しなければなりません。今日現在の東京都の感染確認者数は5030人で実際の感染者数は想定で仮にこの約10倍とします。5万人が感染していると見ると5万×0.3=1万5千人の偽陰性判定が出ることになります。正しく陽性判定されるのは3万5千人です。さらに995万人の感染していない都民に対して偽陽性の判定がでる確率は約1%とされているので995万×0.01=99,500人の偽陽性判定が出ます。陽性判定者の総数は約13万4千500人、うち偽陽性が約10万人出るということでPCR検査のみで隔離するのは無理がありますね。
さて、小林慶一郎氏のコラムの脚注1には一人当たり3回のPCR検査を行うことで偽陰性の割合を2.7%にまで減らすという提案があります。要するに「へたな鉄砲、数打ちゃ当たる」という方式です。1回の検査で3割の偽陰性を出すなら3回検査を行えば0.3の3乗で0.027、つまり2.7%の偽陰性となります。ただしこれは3回のうち一回でも陽性が出たら陽性と見なす場合です。この場合逆に偽陽性は増えてしまい約3%の偽陽性率となります。上記1000万人中5万人が感染という想定なら偽陰性は5万×0.027=1350人、偽陽性は995万×0.03=29万8500人です。この場合正しく陽性と判定されるのは約5万人ですが偽陽性判定が約30万人出てしまいます。35万人の陽性判定者を診察、CTスキャン、などしてそこから5万人の真の感染者を割り出す必要があります。
なかなか大変なことになりますが、本気でこれをすると東京で動き回る感染者は1350人に減らすことが出来るというのがポイントです。これですと満員電車で感染者と遭遇する可能性もかなり低い感じがします。ある高校の生徒が1350人いたとして、東京じゅうに散らばり毎日電車でバイト先に通勤したとして、同じ電車に乗り合わせる可能性はどれくらいでしょうか。顔を合わせる可能性はさらに低いでしょう。
ともかく一日10万件以上のPCR検査をして、1人当たり3回の重複検査をすると3万3千人の検査をすることになります。33000×0.5%=165人の陽性者と33000×3%=約990人の偽陽性者が出るのでそれだけの人をひとまず隔離して診察、精密検査をしていかねばなりません。一日約1155人、一か月なら約3万人以上が出入りする、それだけの医療体制を整え2年間運営するなら小林氏の言われるように1兆円から5兆円くらいの費用がかかるかも知れません。それで100兆円のGDPロスを防ぎコロナ大不況を乗り越えることが出来るなら安いものと思います。(首都圏の隔離施設として例えば幕張メッセを利用することは良いのではないでしょうか。) 秋、冬の第二波、第三波の感染が来るまでにこの体制を整えることが急務です。
検査と隔離、治療のシステムは非常に大規模に行えば都市の感染者をフィルターにかけて集め、市中感染を最低限に抑え込む効果が期待できます。その上でクラスター対策を行えば容易にコロナ危機を乗り切ることが出来そうです。現在第二波の感染を迎えている武漢では人口1100万人を対象とするPCR検査がおこなわれています。
参照:キャノングローバル戦略研究所HPトップ > コラム・論文 > コラム・メディア掲載 > マクロ経済 > 医療のためだけではなく、社会の不安を取り除くための「検査と追跡と隔離」小林慶一郎
脚注1
PCR検査は、1回の検査で真の感染者の70%しか感知できない(感度70%)と言われるが、3回検査すれば、97.3%の感染者を感知して隔離できる(個々の検査が独立事象と仮定すると、3回の検査で感染者を検知する確率は1-(1-0.7)3=0.973)。ただしこれは3回検査して1回でも陽性なら「陽性」と判定するルールにした場合である。1回の検査の特異度は99%(感染していない人の1%は偽陽性がでる)とすれば、3回検査する上記ルールでは特異度は97%(=(0.99)3)に下がってしまう。しかし3回の検査で感度97.3%、特異度97%を達成できれば、一定の条件下では検査精度を考慮して許容できる範囲になるのではないか。